KOKORO Mediaにインタビュー記事が掲載されました

日本に住む外国人・日本人編集者双方の視点から、
世界に向けて、日本のひと・もの・ことのこころを感じ取り、表現するWebメディア「KOKORO Media」。
2020年7月15日の新規オープンの特別企画として、私の仕事について取り上げていただきました。

取材をしてくださったのは、日本在住のフランス人・アメリさん。
日本語を聞いて、理解し、母国語ではない英語で記事を書く。
…という難解なことをやってのける、素晴らしい語学力の持ち主です。

SNSでこの記事を紹介したところ、「日本語で読みたい」という声が多かったので、
編集部から日本語訳を頂戴し、掲載許可もいただきました。

日本語に直訳するとストレートな文体になってしまいますので、
ほんの少し日本語として読みやすいようにし、注訳もつけています。
・・・が、日本の精神文化や私の伝えたいことを理解して執筆されていることは間違いありません。

あらためて自分を振り返り、自分と向き合う時間となりました。
アメリさんと編集部の皆様に、感謝いたします。

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長谷川みちる:日本の食糧生産現場を伝えるライター
アメリ・ジェーラル/2020年7月15日

長谷川みちる氏は、一般的なマスコミのライターとは異なり、我々の日常の食に関わる専門分野で活動している。今回は取材される側となって、初めて彼女の原点と「真実」が意味することについてお話いただいた。


◾️仕事の内容について教えてください。

フリーランスのライター・編集者です。プロジェクトの企画もしています。第一次産業の農業、畜産業、漁業分野を専門としています。林業にはあまり関わったことがありません。農家(畜産農家も含む)や漁師などを取材します。取材の多くは北海道ですが、全国の取材もカバーしています。

多くの記事は農業関連で購読者は主に農家の方、記事は専門雑誌に掲載されます。インターネットにも掲載されることもありますが、みなさんが普段から目にするものではありません。

北海道に厚真と呼ばれる町があります。積極的な移住施策を実施しています。私は、そこに住む人々の生活、就職情報など現地の方々に取材をし、町役場のインターネット情報発信のお手伝いをしています。同町での起業や食物を生産することについても紹介したことがあります。※1

しかし、2年前に起きた地震の震源地となったことで、しばらく活動が止まってしまいました。

取材エリアは他にもあります。岩内町、泊村、神恵内村という漁村です。この2年間、毎月取材で訪れています。漁師や住民にインタビューを行い、記事はインターネットに掲載されます。


◾️どのような経緯で、その専門分野に特化することになったのでしょうか?

仕事を始めた時、ライターになるよりも、本や雑誌を作りたいと思っていました。
きっかけについて話すと、少し長くなります。

私は、生まれつきアレルギーを持っていました。アトピー性皮膚炎です。他の子どもたちと違って、食べるものに制限がありました。中学の終わりから高校まで治療を受けました。とても辛く、何日も学校へ行くことができませんでした。

しかし、いつも側には本と雑誌があったので、気を紛らわすことができました。痛みを忘れ、違う世界に没頭しました。 外出することができなかったので、なおさらたくさんのことに興味がありました。それで本や雑誌を作りたいと思うようになりました。

大人になり、北海道で就職しました。北海道の食品、第一次産業に関わる顧客のために、さまざまな雑誌を編集する仕事でした。生産現場を訪れ、生産者に直接話を聞きに行くようになりました。それまで知らなかった世界です。その時、食は自分の生活の一部でありながら、自分が何も知らなかったことに気づきました。 皆と同じように自分も働くことができるのか、まだ不安はありましたが、現場で直接話を聞くことは、非常に面白いと感じました。そして、自分にはスキルがあると思えるようになり、人と話すことがもっと楽しくなったのです。

もし自分にその特別な背景がなかったら、それほど長い間、この仕事を続けたいと思わなかったでしょう。全て自分の体との関わりがもたらした結果です。

自分のアレルギーについて、こんなにオープンに話したことはありません!そこに注目されたくなかったのです。しかし、最近になって、もっとオープンにしようと思うようになりました。今でも体調が悪くなる時はあります。自分のアレルギーについて多くのことを調べ、食べ物が与える影響の大きさが分かりました。日本人には珍しいですが、私は白米を食べることができません。小麦粉、卵、乳製品も同様です。このことが分かった時、非常に落ち込みました。しかし、結果的には自分の原動力となっています。

自分の体や経験は、強みだと思うようになりました。そのような視点から、食の生産について理解することは不可欠です。真実を伝えたいのです。簡単な要約記事には興味はありません。しかし、自分の背景を伝えないことには、なぜそのような記事を書くのか理解いただけないでしょう。


◾️現場の生産者と直接会って、記事を書いていらっしゃいます。最も伝えたいことついて教えてください。大切なこだわりは何でしょうか?

私は「生きる」を紡ぐ言葉を書いています。※2

この仕事には、他の人々の生き方との接点があります。詳しく知ることで、これらの人々が何を感じ、考えているのかを伝えることができます。消費者が自分の作ったものを食べているということに誇りを持つ方々です。「日本の台所を守りたい」とよく言われます。それが土台にあり、詳しく生産の過程を見ていくと、彼らの思いはもっと深いところにあるのだと分かります。

例えば、自分たちが生活する土地を守るために、何ができるのか非常に心配していらっしゃいます。土地への愛着があるからです。自分の息子に後を継いでもらいたいけれど、それを無理に押し付けたくはないという後継者の悩みなどもあります。生産者のさまざまな面について、一般の方々にもっと知っていただき、応援してほしいと思います。

私たちの生活には情報が溢れており、誰でも意見を発信することができます。だから私は、自分しか書けないことについて記事化しています。嘘はありません。 例えば、商業的な目的で育てるという畜産農家と動物の特殊な関係です。本当に殺したいわけではなく、そうしなくてはならない。彼らの仕事は、コマーシャルでは魅力的な姿が描かれていますが、現実はそれほど完璧ではありません。特に、環境問題となると複雑です。

私は、現場に出向くことにもこだわりを持っています。もちろん本でもたくさんの情報を得ることはできますが、会いに行って直接話すことで、情報量がその2倍、3倍にもなります。実際に得た正確な知識を、彼らの思いも含めて伝えることを大切にしています。


◾️今後のプロジェクトについて教えてください。

私は事実を伝えますが、クライアントのために働くので、書く内容に制限があることも多いです。自分の伝えたい全てを表現する方法を考えています。本を執筆したいとは思いますが、なかなか大変ですし!(笑)将来的な取り組みとしてあるかもしれません。※3

従って、ポジティブではない点も記事に含めたいと思っています。そうすることで、読者は自分で一番良いと考える選択ができるからです。その食品をもう食べないと決めるかもしれないし、好きだから食べ続けようと思うかもしれません。※4

また、もっと多くの人々に、特に海外の方々には北海道についてもっと知ってほしいので、そのような情報も伝えていきたいと思っています。


◾️仕事に活かされている日本の伝統文化は何かありますか?

日本語で「守破離」という言葉があります。「守る」「破る」「離れる」という意味の漢字を使います。武道や茶道などを学ぶ理想的な過程を表します。

最初の「守」は、師匠や先輩から技術を学ぶ段階です。「破る」は、学んだルールを打ち破る時、自分の殻を破って成長する段階。最後の「離」は、自分のやり方で自在に表現できる段階です。

それは自分の経験を示していると思います。まず先輩を見て学び、彼らのテクニックを借りることもありました。特に書く仕事の世界はそうなのです。私は、フリーランスのライターになるまで10年かかりました。今の自分は、2つめの段階にいるのかもしれません。自分のスタイルで、自分のテーマについて書いていますから。

私にとっての3つめの段階は、おそらく記事の中にポジティブではない面を融合させることです。 ※5

嘘をつきたくないということも先輩の影響です。編集制作の仕事をしていた時、現在70代の元上司と元編集長は、正確性について非常に注意深い方々でした。例えば、「これらのトマトは、高い気温と低湿度のおかげで美味しい」と書いた時、「本当にそうなのか?」「ちゃんと再確認したか?」と言われたことがあります。それは、100文字程度(英語で10行相当)の簡潔な記事でした。自分が書いた情報について、自分で責任をとれるのかと私に問われたわけです。そして、もう一度確認したところ、正確ではないことが分かりました。過去に正しかったからといって、ずっとそうだとは限らないのです。この件については、強く印象に残っています。

それ以来、自分の書く内容に大きな責任を感じています。あらかじめ調査して、確かではないことは再確認する必要があります。今の時代において、それはさらに重要なことです。情報の速さを気にかけるよりも、時間をかけて正しいことを伝えることの方が大切なのです。

長谷川さんのお話に刺激を受けた自分は、まだライターとして、間違いなく守破離の第一段階にいる。正確な情報を伝える最良の方法とは何か?長谷川さんが扱うテーマは、私たちの日々の生活に関わるものだけにもっと難しい。「あなたは食べるもので決まる」という言葉があるが、何を食べるかということは、アイデンティティーに関わる。食の生産と選択とは、さまざまな視点から白熱する議論のテーマにもなる。

完璧な客観性が存在するとは思わない。人は自分の見方で、それぞれのストーリーを形作っていく。では、どのようにすれば真実を伝えることができるのか?長谷川さんのお話にあるように、善意だけでは十分とはいえない。信頼できる情報を伝えるには、十分な時間と努力が必要だ。これは、正直なライターであるために払うものなのかもしれない。しかし、知識を世界に広めていくことは、それ以上に大きな恩恵をもたらすのだ。

※1  厚真町が積極的に推進している、移住・起業の情報などが紹介されているメディア
※2  私のホームページの最初に出てくる言葉
※3  文字数や企画意図などによる制限
※4/5 ネガティブな要素をことさら強調して取り上げるのではなく、知識や当事者の想いを伝え、それぞれの人が“当たり前”を今一度見直したり、自分の基準や価値について考えるきっかけになる記事を書きたいと考えています

英語のインタビュー記事はこちら↓
https://kokoro-jp.com/interviews/980/